はじめに
近年、生成AIの発展により、テキスト・画像・音声・動画といったコンテンツが人間によるものかAIによるものか見分けがつかなくなりつつあります。特にフェイクニュースやディープフェイクといった懸念が高まる中、デジタルコンテンツの「本物であること」「人間が作ったかAIが作ったか」を証明し、信頼性を担保する技術が注目されています。
その解決策の一つがブロックチェーン技術の活用です。改ざん耐性のある分散台帳を使い、コンテンツの出所や履歴を記録し、真正性を証明する取り組みが進められています。
今回は、この領域での具体的なサービス・プロジェクト事例とその証明方法、今後の課題や可能性についてまとめました。
代表的なサービス・プロジェクト事例
Truepic
写真・動画のデジタル公証サービス。スマホアプリで撮影した写真や映像のタイムスタンプやGPSなどのメタデータを取得し、そのハッシュ(指紋)をブロックチェーンに記録。改ざんされていないオリジナルであることを後から検証可能にする仕組み。報道や保険分野などで信頼性を担保する目的で導入が進んでいます。
Attestiv
企業向けデジタルメディア検証プラットフォーム。写真・動画・文書に対しAI解析とブロックチェーン記録を組み合わせ、改ざんやAI生成の有無を証明。不正請求防止やブランド保護などに活用。
Numbers Protocol
Web3ベースの分散型コンテンツ証明ネットワーク。画像・動画・音声・テキストなどあらゆるコンテンツのハッシュやメタデータを独自ブロックチェーンに記録し、コンテンツの来歴(プロヴェナンス)を保証。デジタル著作権保護や報道写真の信頼性維持などの実績も。
Verified Authentic
動画配信プラットフォームなどが採用しているメディア認証フレームワーク。映像コンテンツに正規発信元であることを証明するメタデータ(Content Credentials)を付与し、所有者情報をブロックチェーンに記録。
C2PA(Coalition for Content Provenance and Authenticity)
Adobe・Microsoft・BBCなど大手企業が参加する業界標準仕様。画像・動画・PDFなどに編集履歴や発信者の署名付きメタデータを埋め込み、改ざん検知や出所証明を可能にする仕組み。ブロックチェーンへの記録を併用する事例も増加中。
証明の仕組みとアプローチ
ブロックチェーンへの記録
コンテンツのハッシュや発信者署名などをブロックチェーン上に記録することで、不変な台帳に履歴を残し、改ざん検知や発信元確認が可能に。
メタデータによる来歴追跡
コンテンツファイル自体に「誰が、いつ、どうやって作ったか」を記録する。C2PAなどの標準仕様で採用。後から編集された場合は履歴に残る仕組み。
ウォーターマーク(電子透かし)
画像・動画・音声・テキストに不可視の識別情報を埋め込む手法。Google DeepMindのSynthIDや、Meta、OpenAIなどが研究開発中。ブロックチェーンと併用することで透かしの信頼性を高める動きも。
現在の課題
- 採用率の問題
すべての発信者やAI生成サービスが証明情報を付与しない限り、抜け穴が生まれる可能性がある。 - 悪意ある発信者への無力さ
故意に証明を付けない、あるいは改ざんする発信者に対しては別途検出AIの導入が必要。 - チェーンオブトラストの綻び
コンテンツ制作から配信までの各プロセスすべてが信頼できる実装である必要がある。 - ウォーターマークの除去問題
AI透かしは除去や改変のリスクが常に存在し、検出器側の継続的なアップデートが必要。 - プライバシーとの両立
制作者情報などの公開範囲や取り扱いに注意が必要。ゼロ知識証明など高度な技術の導入が課題。 - 真実性までは保証できない
証明はあくまで「誰が作ったか」「改ざんがないか」の保証であり、情報内容の正確性は別途確認が必要。
まとめとビジネスチャンス
今後、AI生成コンテンツはネット上に大量に流通する時代が到来します。それに伴い、「人が作ったのか」「AIが作ったのか」「改ざんはないのか」を証明する技術の重要性はますます高まります。
特に、生成AIサービス側が出力時に署名を付与し、それをブロックチェーンに記録する仕組みは未開拓部分も多く、ビジネスチャンスの余地が大きい分野です。
例えば:
- AI画像・動画・音声に対し「これはAI生成です」と自動署名し、ブロックチェーンに記録
- 人間が制作したコンテンツは、撮影・制作段階でデバイス署名+ブロックチェーン登録
- その証明をプラットフォームが自動検証し、正規発信元の証明バッジを表示
このような**”デジタルコンテンツのトレーサビリティプラットフォーム”**の構築は、今後の市場ニーズが非常に大きいと考えられます。